オンコール待機とは、所定労働時間外に自宅などで待機を行い、もし病院からの呼び出しがあった場合にはすぐに病院に行って医療行為などを行う勤務形態をいいます。こちらの記事では、オンコール待機が残業にあたるのかを解説していきます。
もし「客観的に見て、労働者が使用者の指揮命令下にある」と考えられる状況にある場合には、オンコール待機が労働時間にあたる可能性があるといえます。
例えば、自宅など一定の場所から離れられないなど場所的な拘束を受けている、病院からの連絡が入る頻度が非常に多くその度に病院に向かう、病院からの連絡を受けたものの病院に向かわなかった場合に不利益な処分を受けるなどの状況であれば、「病院側の指揮命令下にある」と考えられるでしょう。このような状況の場合には、残業と認められる可能性があります。
上記とは逆に、例えばオンコール待機中に居場所の制限がなく、自宅以外の場所にも自由に出かけられる場合や、病院から連絡が入る頻度が非常に少なく、呼び出しに応じる機会もあまりない場合、またもし病院から連絡が入ったとしても、自身の裁量により出勤を断ることができる場合には、オンコール待機中だったとしても「病院の指揮命令下にある」とはいいにくい状況であるといえるでしょう。
そのためこのような状況の場合には、残業にはあたらない可能性があると考えられます。
奈良県立病院の産婦人科に勤務する医師2名が、宿直勤務および宅直勤務(オンコール待機)に伴う割増賃金と遅延損害金の支払いを求めた事案です(奈良地方裁判所平成21年4月22日判決)。
同事案について、奈良地裁ではまず当直勤務を「断続的勤務」と規定する病院の勤務時間規則について、実情から考えると労働基準法41条3号(監視又は断続的労働の場合の適用除外)における除外範囲を超えるものとし、割増賃金の対象と認定しました。
その上で宿日直勤務では、「場所的な拘束を受けていたこと」や「呼び出しの場合は速やかに応じ業務を遂行すること」が義務付けられていた点から、宿日直勤務の開始から終了までの時間は病院の指揮命令下にあるとして、対象時間に認定しています。
また宅直勤務に関しては、同院には宅直に関する規定がなく、宅直勤務は産科医間の自主的な取り決めによって行われていたなどの背景がありました。これらの点から、宅直勤務については明示または黙示の業務命令が認められないとし、その時間全体が労働時間に当たるとは認められない、とされています。
こちらの事案では、病院の個別事情が考慮されていることもあり上記のような判断となっているため、一般的な解釈として「オンコール待機には残業代が発生しない」とまではいえないと考えられます。
看護師業務や訪問看護業務などを行っていた原告労働者が、訪問看護業などを営む被告会社に対して、緊急看護業務のため待機していた時間を労働時間に含めて残業代を計算するべきとし、未払いの残業代を請求した事案です(横浜地方裁判所令和3年2月18日判決)。
こちらの事案において、原告は緊急に看護の必要性が発生した場合に備えて、緊急時呼び出し用の携帯電話を常に携帯し、呼び出しの電話があればすぐに駆けつけて看護や救急車・医師への連絡などの緊急対応を行う業務を担当していました。また、被告会社が看護師に持たせていた携帯電話には「No.1」と「No.2」の2種類があり、優先と位置付けられていたNo.1の携帯電話所持者には、「電話の着信には遅延なく気付き、必要に応じて速やかに対応すること」が求められていました。この点から、呼び出しへの応答への必要性が高いこと、また業務そのものの緊急度や緊張度が高いことから、待機時間中は常に一定の緊張状態を強いられていたといえます。
結果として、こちらの事案では裁判所は原告の主張を認め、オンコール待機は残業代が発生する「労働時間」として、残業代と付加金の支払いを命じています。
こちらの記事では、オンコール待機が残業時間にあたるのかについて解説してきました。オンコール待機が残業として認められる場合には、本記事でご紹介してきたとおりさかのぼって請求されることもあり得ます。そのため、正しい知識を持ち、リスクヘッジを行った上でオンコールをはじめとする制度や体制を整える必要があるといえるでしょう。